ヴィゴツキーを勉強しましょう
研究書 ヴィゴーツキー著作日本語訳一覧 ヴィゴーツキー英語訳著作集一覧
ヴィゴーツキー
ヴィゴツキー心理学論集 柴田義松・宮坂ゆう子 訳 学文社 2008.5 ¥2625
新訳版 芸術心理学 柴田義松 訳 新読書社 2006.8 ¥3150
情動の理論―心身をめぐるデカルト、スピノザとの対話― 土井捷三・神谷栄司 他訳 三学出版 2006.8 ¥3360
障害児発達・教育論集 柴田義松・宮坂ゆう子 訳 新読書社 2006.4 ¥3150 1 現代障害学の基本問題
2 障害児の発達と教育に関する学説
3 障害児の心理学と教育学
4 障害児教育の原理
5 知的障害の問題
6 知的障害児の発達と補償の問題
7 障害児の発達要因としての集団
8 重度障害児の教育
9 困難を抱えた子どもの発達診断と児童学的臨床
記号としての文化 発達心理学と芸術心理学 叢書・二十世紀ロシア文化史再考 柳町裕子・高柳聡子 訳 水声社 2006.2 ¥4200 『子どもの発達における言語と記号』全訳と『芸術心理学』の部分訳を含む.
文化的-歴史的精神発達の理論 柴田義松 訳 学文社 2005.9 ¥3675 「地獄の読書録585」
Л.С.Выготский,История развития высших психических функций (1930-31)の訳.訳は全集版第3巻から.全訳ではなく,「算数操作の発達」「記憶と記憶術機能の発達」の2章が訳されていません.以前出版されていた『精神発達の理論』(明治図書 1970)は,この書の前半のみの訳.
出版されずに草稿のままに留まっていたものがロシア語全集版で初めて公開されました.草稿のまま,ということだけあって,後半部分は叙述が不充分だったり繰り返しがあったりします.基本的には前半部分は,以前読んだ「心理学の危機」の分析を応用して方法論を検討し(この部分はよく書けている),後半はこれまでの自身の発達心理学研究とおなじみの研究者たちの批判的紹介を含めて「高次機能」(言語・記憶・注意・意志)を考察していきます.ここが不充分なわけです.なので,これだけを読むと最終的に満足できません.後に続く著作を読んでから振り返る,というのが妥当な読み方なのかもしれません.
ヴィゴツキー教育心理学講義 柴田義松・宮坂ゆう子 訳 新読書社 2005.8 ¥3150
思春期の心理学 柴田義松・中村和夫・森岡修一 訳 新読書社 2004.1 ¥3150 「地獄の読書録582」
Л.С.Выготский,Педопогия подростка (1928-31)の訳.訳は全集版第4巻から.訳の第2章の一部が『言語と思考』と重複するために,全集版で重複部分がカットされており,訳もそれに従っています.また,全集との章の順番も変わっています.
題名を一見すると,発達心理学の一部分についてなのかな,と思われますが,実際はヴィゴーツキーの思想のかなり重要な部分を述べた著作.これがソヴィエトの通信教育のテクストだったというのですから,レヴルが高かったのですねえ.
思春期に性的成熟と共に人間の高次精神機能が発達する,その仕組みを論じています.基本的な主張は,幼児期の思考や精神的機能がそのまま機械的に増大することで高次精神機能が現れるのではなく,機能間のシステムが大きく変更され,高次機能を統括するシステムができる,という感じ.幼児期の機能は失われるのではなく,高次なシステムに組み込まれて存続するが,従属的な機能に留まります.歴史的変化というのもこのような見方をすべきなのだと思います.
ただ,あくまでも思春期の発達の話であって,どれほど誘惑があってもそれを無闇に拡張すべきではないし,拡張するなら自己責任で(ヴィゴーツキーに依存するのではなく).
「発達の最近接領域」の理論 教授・学習過程における子どもの発達 土井捷三・神谷栄司 訳 三学出版 2003.8 ¥2415 「」
IV「児童期における他言語併用の問題によせて」
幼児がバイリンガル状況で育つとどうなるか,というのは今日でも関心の寄せられているところですが,ヴィゴーツキーは先行研究から,他言語併用が幼児の思考発達に良い結果(少なくとも悪くない結果)を出している場合と,悪い結果をもたらしてしまった場合を取り上げ,どうして異なる結果が出たのかを分析し,最終的には発達の程度を測定するテストに問題があることを指摘します.言葉の関わらない思考についてテストしようとしても,言葉はどうしても隠れて影響してしまう,だから言葉抜きの思考など測定しようがない=言葉の発達と思考の発達は分かちえない,ということになります.章末に『思考と言語』からの引用付き.
V「書きことばの前史」
前史,というのは子供の発達の歴史の中で,ということ.
音声による言語と文字による言語は異なる発達の末に獲得されるのですが,特に,書きコトバ(文字)の習得には自然的発達と文化的影響の両方が複雑に絡み合っています.ヴィゴーツキーによれば,幼児は身振り手振りの延長として書きコトバを習得するのだといいます.幼児は,身振りの延長で何かを描き,それに後から名前を付ける段階,名前を言いながら書く段階,名前を言ってから書く段階,と発展していくのだそうです.自由に書いていく「遊び」が重要な要因になる,という指摘.かなり重要な論文です.
子どもの心はつくられる ヴィゴツキーの心理学講義 菅田洋一郎 監訳; 広瀬信雄 訳 新読書社 2003.3 ¥2600 2000年に同じ出版社から出版されたものの新装版.
子どもによる道具と記号操作の発達 第2章 ヴィゴツキー (土井捷三・神谷栄司 訳) 『ヴィゴツキー学』2003, 4: 25-34 子どもによる道具と記号操作の発達 第5章 ヴィゴツキー (土井捷三・神谷栄司 訳) 『ヴィゴツキー学』2003, 4: 35-38 「地獄の読書録578」
Л.С.Выготский,Орудие и знак в развитии ребенка (1930)の訳.
翻訳の構成がちょっと面倒.『新児童心理学講義』という著作の後半部分が「子どもによる道具と記号(言葉)操作の発達」となっているのですが,これが抄訳.原書全6章構成の第2章と第5章だけが翻訳されず,それを飛ばして章番号が続いています,即ち原書第3章が翻訳第2章,原書第4章が翻訳第3章,原書第6章が翻訳第4章,という対応です.訳書出版の後,飛ばされた章が『ヴィゴツキー学』誌に原書のままの章番号で訳されました.原文通りに続けて読みたい場合は,本とコピーを両手にして読み進めねばならないわけです.不便なり.
内容は動物心理学と人間発達心理学との比較から,動物と人間の「道具」使用の類似と相違を明らかにして,人間固有の高次機能の発達は記号,特に言語の道具的使用(外部とのコミュニケイションのための言語)が内的に使用され思考を制御するようになることだ,と主張するもの.高次機能発達と言語との関係についてのヴィゴツキーの主張を比較的長く論じたものです.
ヴィゴツキーは,実験している,と言うのですが,具体的デイタが示されていないので,ほんとかな,と思わせるところもあります.デイタ部分は他のところに載っているのか,それとも,当時はあまり厳密でなかったのか.実験デイタに基づいている,ということがヴィゴツキーの主張の根拠なのですから,そこがはっきりしないと,哲学者の思弁と違いないことになってしまうのですがねえ.
新訳版 子どもの想像力と創造 広瀬信雄 訳;福井研介 注 新読書社 2002.7 ¥2100 「地獄の読書録577」
Л.С.Выготский,Воображение и творчество в детском возрасте (1930)の訳.
前半はフランスの心理学者Théodule Armand Ribot (1839-1916)の研究(題名は挙げられていないのですが,恐らくEssai sur l'imagination créatrice (1900)でしょう)を参照にしながら,子供の想像力と創造性との関連について論じて(リボーは恐らく子供に限定した話を展開しているのではない),後半では,実際に子供の文学・演劇・絵画を分析する,という構成.
150頁ほどの小著ですが,多くの他の研究者の引用と言及(トルストイも出てくる)がかなりあります.このことは,ヴィゴツキーが決して孤立した天才であったわけではないことを示しています.特に,リボーの影響は大きかったようです.しかし,リボーについて私は全く知らないので,ヴィゴツキーにどれほど独自性があるのか評価できません.
以前の読書で,この著作の内容については大体の知識を持っていましたが,読んでみてすっかり納得.自分の考えが正しい方向に向かっているのだ,ということを再認させてもらいました.
ちなみに,リボーの著作はGallicaからダウンロードできます.
新児童心理学講義 柴田義松 訳 新読書社 2002.5 ¥2730 「地獄の読書録578」
「第2部 子どもにおける道具と記号(言語)操作の発達」
Л.С.Выготский,Орудие и знак в развитии ребенка (1930)の訳.
翻訳の構成がちょっと面倒.『新児童心理学講義』という著作の後半部分が「子どもによる道具と記号(言葉)操作の発達」となっているのですが,これが抄訳.原書全6章構成の第2章と第5章だけが翻訳されず,それを飛ばして章番号が続いています,即ち原書第3章が翻訳第2章,原書第4章が翻訳第3章,原書第6章が翻訳第4章,という対応です.訳書出版の後,飛ばされた章が『ヴィゴツキー学』誌に原書のままの章番号で訳されました.原文通りに続けて読みたい場合は,本とコピーを両手にして読み進めねばならないわけです.不便なり.
内容は動物心理学と人間発達心理学との比較から,動物と人間の「道具」使用の類似と相違を明らかにして,人間固有の高次機能の発達は記号,特に言語の道具的使用(外部とのコミュニケイションのための言語)が内的に使用され思考を制御するようになることだ,と主張するもの.高次機能発達と言語との関係についてのヴィゴツキーの主張を比較的長く論じたものです.
ヴィゴツキーは,実験している,と言うのですが,具体的デイタが示されていないので,ほんとかな,と思わせるところもあります.デイタ部分は他のところに載っているのか,それとも,当時はあまり厳密でなかったのか.実験デイタに基づいている,ということがヴィゴツキーの主張の根拠なのですから,そこがはっきりしないと,哲学者の思弁と違いないことになってしまうのですがねえ.
思考と言語 新訳版 柴田義松 訳 新読書社 2001.9 ¥3500+tax 「地獄の読書録646」
言わずとしれた大著.ヴィゴーツキー思想の集大成なのですが,明らかに入門的著作ではありません.しかし,心理学についての狭い専門書というわけでもない.何を学ぶにしても読んでおくべき内容を持つ20世紀の古典でしょう.7章を含み,第1章から第4章まで(これで全体の3分の1)が同時代の心理学の批判的検討から独自の見解を導き出す部分(ここは読み飛ばすべきではない)で,残り3章が独自の思想を展開する部分になります.
第5章「概念発達の実験的研究」では,子供の概念発達の3段階を辿ります.概念は外から一方的に与えられるもの(欠如モデル)ではなく,子供による創造的なプロセスを経て発達するものだ,ということが実験によって示されれます(ただし,詳しいデータはこの著作では与えられない).
第6章「子どもにおける科学的概念の発達の研究」では,非体系的で非自覚的な日常的概念と対比される体系的・自覚的な科学的概念(これは学校で教えられる)がどのように子供の中で発達するかを論じます.ここで有名な「最近接発達領域」論が登場します.話し言葉・書き言葉・外国語の習得を類比的に考える点が重要.自覚的であることが科学的概念の特徴で,即ち意識が問題となってきます.
最後の第7章「思想と言葉」では,思考が言語を介して発生する様子を「内言」論として展開します.この章の前半は実験的な発達心理学を基礎にするのですが,後半には文学を使用します(芸術に関心を持ち続けていたヴィゴーツキーに相応しい).最終的には,思考の動機となる情動を理解することが必要だ(しかし,この著作では論じられない),そして,人間の意識の問題を扱うことがこれからの目的だ,として締めることになります.
ともかく,理解が困難な著作です.間違っても,この著作からヴィゴーツキーを読み始めるのは止めるべきです.なるべく著作順に読んでいけば,何度か繰り返される議論があり,それがこの著作にもちりばめられているので,この著作の読書が少し容易になります.Festina lente.
訳がこの著作の読書をより困難にしています.英語訳も参照しましょう.索引付き.
子どもの文化的発達の問題 中村和夫 訳 『心理科学』 12(1990)n.2, 24-34 「地獄の読書録576」
Л.С.Выготский,“Проблем культурного развития ребёнка”(1928)の訳.
子供の発達についてのヴィゴーツキーの基本的考えが凝縮されている論文.思考の発展とコトバの発展とが別々の2系統であること,記憶の例によって発達の4段階を示し,そこに思考とコトバの関わりの発展を見ること,それが「内化」(←この言葉は使わないが)というものであること,を示します.人間が道具を使って対象を制御するのとアナロジーで,人間がコトバ(シンボルも含む)を使って自分自身(の思考)を制御するようになる,というわけです.
道具とコトバはあくまでアナロジーであり,違いもあることはヴィゴーツキーも理解していました.
ごっこ遊びの世界 虚構場面の創造と乳幼児の発達 ヴィゴツキー他 (神谷栄司 訳) 法政出版 1989.9 ヴィゴーツキーの論文は「子どもの心理発達における遊びとその役割」を所収.
ヴィゴツキー著作選集1 心理学の危機 歴史的意味と方法論の研究 ヴィゴツキー+ルリヤ (大井清吉・渡辺健治 監訳) 明治図書出版 1987.9 「地獄の読書録575」
この第1巻はヴィゴツキー初期の方法論的著作にレオンチェフによる解説が翻訳されています.
●「心理学における道具主義的方法」“Инструментальный метод в психолоии”:1930年に行われた報告の草稿のようなもの.24の命題で構成されていて,私の専門の医学文献を思わせます.ヴィゴツキーの心理学の基本的方法が書かれているもので,入門として良いものかもしれません.道具主義,というのは,人間が道具を使って自然に関与するのとのアナロジーとして人間は刺激と反応の間に記号(言語など)を介在させる,という主張.活動理論に似ているが,それとは明らかに違う主張をしている,というのが下の中村の主張です.
●「行動の心理学の問題としての意識」“Сознание как проблема психолоии поведения”:1925年に出版された論文.次の長い議論の縮約版.
●「心理学の危機の歴史的意味 方法論的研究」“Исторический смысл психологического кризиса”:1927年には完成していた未発表の草稿 .これが難しい.ですが,非常に重要な多くの指摘が含まれています.今,私がこの論文を消化できないでいることが残念です.心理学の話をしているのですが,一般的な学問論としても読める(そう誘惑される)刺激的な論考です.80年前の論文ですが,後の様々な議論を先取りしていることも驚きです.ヴィゴツキー初期の論考なわけですが,これを読みこなせれば,ヴィゴツキーの本質が判るような気がします.励め.
ヴィゴツキー著作選集2 人間行動の発達過程 猿・原始人・子ども ヴィゴツキー+ルリヤ (大井清吉・渡辺健治 監訳) 明治図書 1987.10 「地獄の読書録579」
Л.С.Выготский и А.Р.Лурия,Зтюды по истории поведения: обезьяна・примитив・ребенок (1930)の訳.
副題の訳が正しくなくて,「類人猿・原始人・子ども」が正しい.第1章が類人猿,第2章が原始人,第3章が子どもを扱っています.この第1章と第2章がヴィゴーツキー,第3章をルリヤが書いています.
ヴィゴーツキーの部分は,先行研究のまとめとそれについての評論がはさまれているという感じで,他の著作でも語られているようなことばかりです.というか,子どもとの比較研究のために読んだ類人猿や「原始人」の先行研究のノートをまとめた感じ.ヴィゴーツキー思想の発展を理解するためには重要な文献ですが,今日の研究レヴルから考えて内容を鵜呑みにするべきではないでしょう.ルリヤの第3章の方が今日でも通用する重要性を持っていると思われます.
反射学的研究と心理学的研究の方法論 中村和夫 訳 『心理科学』 8(1985)n.2, 30-44 「地獄の読書録574」
Л.С.Выготский,”Методика рефлексологического и психологического исследования”(1926)の訳.キリル文字は全角なので単語の途中で改行することを許せ.
1924年に学会で発表された講演を論文にしたもの.この発表が目に留まってヴィゴーツキーが世に知られるようになったという出世作.実に,初期ヴィゴーツキーは心理学の方法論という極めて抽象的なテーマを扱っています.この後,徐々に具体的な問題へと関心を移していくことになるわけです.
反射学(パーヴロフなんかの理論)と心理学(こちらは何を具体的に指しているのかは不明ですが,意識を問題とするので主観的心理学かもしれません)との関係について論じたもの.反射学が意識の問題を扱おうとしないことで行き詰まりつつあることを指摘し,意識を反射の反射,思考を音声を伴わない中断された反射と理解することで,新しい展望を開こうという若々しい意欲を見せる論文になっています.
今日の我々から見ると,この対立は脳科学と伝統的心理学との対立に類似しているようです.心理学が脳科学に還元されるのか,棲み分けて二元論に落ち着くか.ヴィゴーツキーは,一方的な還元も二元論も認めずに,統合する方向を目指しているようなのですが,それはまた後の話.
寓話・小説・ドラマ その心理学 峯俊夫 訳 国文社 1982
ヴィゴツキー障害児発達論集 大井清吉・菅田洋一郎 監訳 ぶどう社 1982.8
海外名著選 67 児童心理学講義 柴田義松・森岡修一 訳 明治図書出版 1976
海外名著選 61 子どもの知的発達と教授 柴田義松・森岡修一 訳 明治図書出版 1975
精神発達の理論 柴田義松 訳 明治図書出版 1970
海外名著選 18-19 思考と言語 全2巻 柴田義松 訳 明治図書出版 1962
ヴィゴツキーの生涯 A.A. レオンチェフ (菅田洋一郎 監訳;広瀬信雄 訳) 新読書社 2003.7 ★★★ 「地獄の読書録569」
А.А.Леонтьев,Л.С.Выготский (1990)の訳に,著者からの日本語版への序文を加えたもの.著者は心理学者で,その父親はヴィゴツキーの弟子でもあった心理学者.
学生向けに書かれたヴィゴツキーの伝記.といっても,常識のレヴルが異なるのか,心理学について一定の知識がないとよく理解できません.ということで,これからヴィゴツキーを理解しようとするのは難しい.ヴィゴツキーの思想的展開を追って説明してくれているのでおもしろく読めますが.
訳はあまり良くない.註を脚註型にしたのは良いのですが,全て文献註(引用の出典)なので,そこを日本語に訳す必要はなかったのです.どうせ原書まで辿って読もうと思う人間はロシア語が判るはずですから原文のままにしておいて欲しかった.きちんと読むためにはロシア語が判らないとだめなのだな(私は現在ロシア語が読めない).
ヴィゴツキーを評して「心理学のモーツァルト」と言ったのはトゥールミンだったのですねぇ.
ルリア
認識の史的発達 ルリヤ (森岡修一 訳) 明治図書 1976.8 ★★★★ 「地獄の読書録394」
А.Р.Лурия, Об историчеком развитии познавателных процессов (1974)の訳(キリル文字は全角なので単語の途中に改行してしまうことを許せ).
ルリヤ(本によってはルリア)はソヴィエトの心理学者.ヴィゴツキーの友人であり弟子である人物で,日本でもその著書が多く紹介されています.この著作は,出版が1974年なのですが,中で挙げられている聞き取り調査が行われたのは1931-32年という40年以上前のことでした.どうしてこんなに発表が遅れたのかは書いてありません.ともかく,当時はソ連に属していたウズベキスタン(アヴィセンナの生地ですよ)で,文盲の農民や少々文字の読める人や学生(もちろん文字が読める)などを対象として,認識についての比較心理学的調査を行った結果を分析した研究です.
ルリヤの認識はともかく,オングによると,この調査には声の文化と文字の文化の違いが明確に現れているといいます.特にオングは,声の文化の状況依存性についてルリヤの調査を証拠としています.声の文化に生きる人々が抽象化を苦手とし,推論・判断に際しては形式的なものを受け付けず,形式的な質問ができない(具体的な場面で他人に尋ねることができるが,改めて相手に「私に質問してください」と言われると,要請を回避した),自己反省・自己分析ができなかった.このような特質は,全て状況に依存して思考する常態を反映したもので,それに対して,抽象化・形式的思考・自己反省のような特色は読み書きを学んだもの(文字の文化に生きる人)に可能になる,とオングは考えます.
それを,状況論的に考えると,文字の文化に生きる人の特性も,独自の状況の中で思考しているという意味では状況に埋め込まれていると考えるべきだ,ということになります.読み書きを学んだ人は,学校の教育というゲームのルールを学んでいるので,カテゴリー分け,形式的推論,質問の構築が可能になるからです.調査員との対話の中で,自分の生きている状況から教室での質問という状況へのスウィッチが可能になるかどうか,が問題になるわけです.
読み書きを憶えた人ならば,ルリヤの農民のような反応はしないだろう,と思ったら大間違い.我々が日常で如何に状況依存した思考しかできていないか(というか本当に状況に依存した思考が必要であるからなのですが)は,ちょっと反省すれば判ります.我々は状況のオプションを1つ余分に持っているというだけに過ぎないのです.
社会と文化の心理学 ヴィゴツキーに学ぶ 茂呂雄二・田島充士・城間祥子 編 世界思想社 2011.08 ¥2520 978-4-7907-1537-5
ヴィゴーツキーに学ぶ 子どもの想像と人格の発達 中村和夫 福村出版 2010.11 ¥2725 978-4-571-23050-9
未完のヴィゴツキー理論 甦る心理学のスピノザ 神谷栄司 三学出版 2010.07 ¥3360 978-4903520506
教育実践とヴィゴツキー理論 授業展開とヴィゴツキー解釈の混迷に抗して 麻実 ゆう子 一光社 2010.07 ¥2625 978-4752819479
社会と心 新ヴィゴツキー派の視点 高取憲一郎 三学出版 2009.07 ¥1575 978-4-903520-39-1
朝倉心理学講座11 文化心理学 田島信元 編 朝倉書店 2008.2 ¥3780
ヴィゴツキー系の論文が含まれています.
保育のためのヴィゴツキー理論 神谷栄司 三学出版 2007.11 ¥2415
The Cambridge companion to Vygotsky (eds.) Harry Daniles, Michael Cole, and James V. Wertsch Cambridge UP 2007 $22.99
ヴィゴツキー心理学事典 柴田義松 新読書社 2007.6 ¥3150
ヴィゴツキーと教育学 ハリー・ダニエルズ (山住勝広 他訳) 関西大学出版部 2006.6 ¥5250 ★★★★
20世紀までのヴィゴツキーに由来する「教育」研究(ヴィゴツキーの歴史的研究ではない)の流れをサーヴェイして,最後に著者自身の研究を加えたもの.そのサーヴェイの部分だけでも非常に役に立ちます.
ヴィゴツキー入門 柴田義松 子どもの未来社寺子屋新書 2006.3 ¥840 ★★★★ 「地獄の読書録641」
日本で始めてのヴィゴーツキーの仕事全般を判りやすく紹介した入門書.他にも入門書的な著作はありましたが,全般的な紹介ではありませんでした.本書も200頁少々という短さながら,一通りのヴィゴーツキーの業績の解説と著者自身の見解までも含めることができています.これで,とりあえずヴィゴーツキーについて知りたい,という時に最初に読むべき本がようやくできました.その意味で評価は高いです.
もちろん,ヴィゴーツキーやその思想を利用する人々にいろいろと考え方の違いがあります.著者の場合,もともと教育学の専門家なのでそちらの方に引っ張って理解しようとしています.私は,むしろヴィゴーツキーは教育の実践から学んだ心理学者だったというように思っています(←たいした根拠無し).
ヴィゴツキー学 神戸:ヴィゴツキー学協会, 2000.3- 年1冊刊行.論文の他にヴィゴツキーの著作の翻訳なども掲載.
公式サイト「ヴィゴツキー学協会」
児童青年期カウンセリング ヴィゴツキー発達理論の視点から 山崎史郎 ミネルヴァ書房 2005.10 ¥3150
ヴィゴーツキー心理学完全読本 中村和夫 新読書社 2004.12 ¥1260 ★★★ 「地獄の読書録571」
100ページ弱の薄さと題名からして入門書のような感じを受けますが,全然違います.著者の研究論文を2本収めたもので,内容はかなり専門的です.下の著作の延長線上にあるので,下を読んでから読みましょう.
第一の論文は,ヴィゴーツキーの有名なZPDこと「発達の最近接領域」について.この結構定着している翻訳が実は正しくなく「次に続く発達の領域」あるいは「最近接発達の領域」とするのが正しい,と著者は言います.確かに英語訳はZone of Proximal Developmentだから,「最近接発達の領域」ですね.この分野は主に教育に関するところなので,私の関心からは少々はずれます.
第二の論文は,ヴィゴーツキーの「内言」を扱うもの.ヴィゴーツキーの意味論ですね.著者は,ヴィゴーツキーの書かれざる意味論を構想し,イメージがキイになると考えます.私にとっては非常に興味深い論文でした.
社会文化的アプローチの実際 学習活動の理解と変革のエスノグラフィー 石黒広昭 編著 北大路書房 2004.8 ¥3500+tax
「シリーズ 社会文化的アプローチ」
はじめて学ぶヴィゴツキー心理学 その生き方と子ども研究 明神もと子 編著 新読書社 2003.4 ¥1050 ★★★ 「地獄の読書録568」
編著者は北海道教育大学教授.幼児心理学が専門.
複数の著者によるヴィゴツキー心理学の解説.具体例に則してヴィゴツキー理論を紹介する第1部「ヴィゴツキーに学ぶ」,ヴィゴツキーの生涯と障害者教育・「発達の最近接領域」を簡単に紹介する第2部「ヴィゴツキーを知る」で構成されています.第2部が普通の解説書のような話で充分に役立ちますが,第1部の方がおもしろい.
ヴィゴツキーのさわりのさわり,といったくらいの話ですが,入門書として,さらなる読書を招くという点で第1部は成功していると思います.子供と想像力.想像というのは,やはり重要なのなだな,と再確認.
行為としての心 ジェームズ・V.ワーチ (佐藤公治 他訳) 北大路書房 2002.10 ★★★★ 「地獄の読書録622」
James V. Wertch, Mind as action (1998)の訳.
下の著作が,ヴィゴーツキーにバフチンを加えて拡張していったように,今度はそれらにケネス・バークを加えて,行為者と媒介手段(文化的道具)との関係の理論のさらなる拡張を目指した著作.媒介手段を道具箱(toolkit)メタファで捉える著者らしく,次から次へと新しい「道具」を持ち出してきます.学びかつ教え,テクストと対話する研究というのはこういうやり方を言うのでしょう.見習う.
文化心理学 発達・認知・活動への文化‐歴史的アプローチ マイケル・コール (天野清 訳) 新曜社 2002.8 ★★★★ 「地獄の読書録415」
Michael Cole, Cultural psychology: A once and future discipline (1996)の訳.
文化心理学,という新しい分野を切り開こう,とする意欲作.もともとは現代的心理学の祖であるヴントが考えていた2つの心理学(個人ベースの知覚・認知などを調べる第一の心理学と,文化のような高次精神機能について調べる第二の心理学)のうち,忘れられていた第二の心理学を,ソヴィエト心理学(ヴィゴツキー=ルリア=レオンチェフのライン)によって復権し(著者はルリアの弟子だ),アメリカの心理学(第一の心理学)と統合することを目指しているのです.原題の副題にある「once and future discipline」というのは,「かつて」ヴントが目指していたが,およそ1世紀の心理学研究の後に,再び目指すべきものとしての「将来の学問」という意味が込められているわけです.
その統合は著者の師匠格であるルリアの路線を行く「ロマン主義科学」というもの.著者がルリアの伝記をまとめる際にルリアの発想の元になったゲーテの『ファウスト』に遡って見つけた言葉に由来する命名のようです.つまり,科学史上でのロマン主義科学とは関係ないみたい.2つの心理学の対立,というのは,近代科学の法則指向型科学(物理学に代表される)と事実収集型科学(博物学に代表される)との対立の心理学版でしょう.科学史上でロマン主義科学というと後者を指す感じがするのですが(←あまりよく知らない).歴史研究でも法則指向と事実収集という対立軸があります.もちろん,どちらか一方だけというのは私くらいですが,どちらかを快く思わない人はいるみたい.私の場合は,歴史への関心の入口が社会史だったので,どうしても個別ケースに注目しがちです.
ヴィゴツキーの心の社会的理論 メレディス・ウィリアムズ (宍戸通庸 訳) 『ウィトゲンシュタイン、心、意味 心の社会的概念に向けて』(松柏社 2001.1),第10章 ★★ 基本的にワーチの1985年の著作と論文集に依拠してヴィゴツキー理論を紹介する第1節と,ヴィゴツキーの語-意味理論を批判する第2節から成っています.著者の主張は第2節にあるわけですが,ワーチの補正(ヴィゴツキーの言語理論を現代の言語学で補正しようというもの)への批判で終わってしまいます.最後にちょっとだけウィトゲンシュタインが出てきて,ヴィゴツキーはウィトゲンシュタインの言語理論で補正すれば良くなりそうだよ,と指摘します.ええ,それを展開してくれるんじゃなかったの? と読者は肩すかしをくらってしまいます.それが残念.
訳はひどい.この翻訳ではなく原書(ペイパー版)
Meredith Williams, Wittgenstein, Mind and Meaning: Towards a Social Conception of Mind (Routledge, 2002)
を参照しましょう.
ヴィゴツキーの方法 崩れと震動の心理学 高木光太郎 金子書房 2001
文化と進化の心理学 ピアジェとヴィゴツキーの視点 高取憲一郎 京都:三学出版 2000.1 ★★★ 「地獄の読書録416」
著者高取憲一郎(たかとり・けんいちろう,1948-)は鳥取大学教授で,教育心理学の専門家.ピアジェやヴィゴツキーについての著作があります.
130ページほどの小著.大学の講義用のテクストのようなもの(値段も税抜き1300円)で,基本的には入門的な概説書です.標題のように進化心理学にも目を配っているのですが,本質はピアジェとヴィゴツキーを統合しようという試みです.参考文献も豊富で親切.この本自体は現在手に入らないようなので,図書館を探しましょう.
講義テクストだからといって,妙に整序されていたり,上から押しつけるように語るのではありません.著者自身が関心を持って読書を進めた歴史を辿るので,初心者には入りこみやすくなっています(やはり教育の専門家が書いているからか).また,自ら読んだ他人の諸著についての評価も述べられているので,非専門家には参考になります.いわゆる「文化心理学」について一通り目を通しておきたい,という人にはお勧めでしょう.
対話の中の学びと成長 佐藤公治 金子書房 1999.12 ★★★ 「地獄の読書録561」
対話を主題としてより理論的な考察を行った著作.対話・コミュニケイション・他者に関する心理学・社会学・文学理論までも巻き込んだ論考ですが,教育に資するという著者の目的は失われていません.読みに関する著者の考えについては,私にとっても重要なものがあります.
具体性のヴィゴツキー 茂呂雄二 金子書房 1999.8 ★★★ 「地獄の読書録407」
著者はこの著作で,「具体性」をキィワードにヴィゴツキーを読み直し,エスノメソドロジーなどの力を借りてヴィゴツキーの拡張を試みます.そもそもヴィゴツキーに詳しくない私にはなんのことやら,という感じです.どうしてもまだ,とっかかりがつかめないなあ.「具体性は多様性の統一だ」というのも,歴史をやっている人間には当り前のことですからね.
教科学習の社会文化的構成 発達的教育研究のヴィゴツキー的アプローチ 山住勝広 勁草書房 1998
ヴィゴーツキーの発達論 文化‐歴史的理論の形成と展開 中村和夫 東京大学出版会 1998.1 ★★★★ 「地獄の読書録570」
恐らく日本語で書かれた唯一のヴィゴーツキー自身についての研究書(ロシア語の発音を正確に表記するとアクセント部分を長めに発音するのでヴィゴーツキーの方がいいみたいなので,この項では音引きを入れます).きちんとロシア語の原文を読んでのヴィゴーツキーの内的な研究という姿勢は,非常に好感が持てます.
基本的には,ヴィゴーツキー自身の思想的展開に沿った解説の第I部と,様々なヴィゴーツキー批判や解釈に対する評価の第II部で構成されています.予備知識がほとんど無く取り組んだので,私は結構苦労しました.私にとってポイントとなったところは後半,特に活動理論とヴィゴーツキー理論との違いを著者が鮮明にしている部分でした.私自身もそのあたりを混同していたところがあったからです.特に,状況論的アプローチでのアーティファクト(人工物)概念に対する著者とヴィゴーツキーの批判には納得.
研究論文を集めたものなので初心者が読むには辛いのですが,いきなりヴィゴーツキーの著作に突入する前には読んでおきたい著作です.
認知心理学からみた読みの世界 対話と協同的学習をめざして 佐藤公治 北大路書房 1996.10 ★★★★ 「地獄の読書録557」
著者はワーチの著作を翻訳していて,ワーチの見解を取り入れた教育心理学を探求しています.即ち,ヴィゴツキーにバフチンの対話理論を加えた方法です.この著作は,小学生の読み方の学習を巡って,理論的考察と具体的な事例を挙げて論じます.前半と後半に分かれ,前半が理論,後半が「ごんぎつね」の読解に関する事例研究となります.後半は教育系の人には気になるでしょうが,とりあえず略.
私にとって重要だったのは第2章から第4章までの理論編でした.状況論的アプローチとヴィゴツキー・バフチンの社会構成主義による読書論というのは今の私の関心にぴったりでした.教育に資するという著者の目的のために,文学を読んで理解することが話の中心ですが,科学理論の理解に関しても応用が可能かどうかは検討する価値があります.
心の声 媒介された行為への社会文化的アプローチ ジェームズ・V.ワーチ (田島信元 他訳) 福村出版 1995.8 ★★★★ 「地獄の読書録621」
James V. Wertch, Voices of the mind: A sociocultural approach to mediated action (1991)の訳.新装版も出ていますが,内容に変更はないようです.
著者はアメリカにおけるヴィゴーツキー・ルネサンスの立役者の1人.この著作は,著者の続けてきたヴィゴーツキーを引き継ぐ研究を発展させるきっかけとして,ヴィゴーツキーとほぼ同時代に活躍した(しかし,ずっと長生きした)同じソヴィエトのミハイル・バフチンを援用しようという試み.第1章で概説を述べた後に,第2章でヴィゴーツキーを簡単に紹介し,その記号を媒介とする行為についての理論を整理して,第3章と第4章でバフチンの言語理論を紹介し,ヴィゴーツキーの内言論との共通性,さらにバフチンの対話重視・意味の多重性(著者は多声性という)について論じます.この部分を眺めていると,早くバフチンの著作を読んでみたい,という誘惑に駆られます.そして,最後の2章でバフチン理論の応用と具体例からの考察を行います.1985年に著者が発表した著作でヴィゴーツキーについて充分に論じたので,こちらではバフチンの重要性を強調しているのでしょう.カーニバル論とかには踏み込んでいません.
それほど長くはない著作なのですが,結構読むのがたいへんでした(それは私が部外者だからか).
学びの対話的実践へ 佐藤学 佐伯胖・藤田英典・佐藤学 編『シリーズ学びと文化1 学びへの誘い』(東京大学出版会 1995.7),49-91頁 ★★★ 20世紀中庸に世界に先駆けてヴィゴーツキーを導入した日本なのですが,その導入し方がゆがんでいた,ということを日本教育思想史を背景に論じています.
ヴィゴーツキーとルビンシュテーイン 思考の文化-歴史的理論批判 ブルシュリーンスキー (中村和夫 訳) ひとなる書房 1986